業務中のボイスメモ|録って文字起こすのが前提になった

木の机に置かれた小型ボイスレコーダーと開いたノート、万年筆、湯呑みの水彩イラスト

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依頼者の話を聞きながら、手でメモを取る。50代で開業した私には、これがもう無理でした。書いている間は相手の顔が見えない。追いつかないから相手を待たせる。あとで読み返すと、肝心の数字が抜けている。結論から言います。業務中の録音と文字起こしは、もう「あると便利」ではなく「ないと困る」ものになりました。この記事では、無料でできるところから専用機まで、順に整理します。

目次(全11項目)
  1. メモだけでは、なぜ追いつかないのか
  2. 録音は「証拠」のために録るのではない
  3. まず、いま持っているもので始める
  4. スマホ録音で困るのは、こういうとき
  5. 専用機を使うと、何が変わるか
  6. 選ぶときに見るのは、この三つだけ
  7. 道具を変えても、秘密保持義務は消えない
  8. 運用の型——録ったあとが本番
  9. よくある失敗、四つ
  10. まとめ
  11. この記事で確認した一次情報

メモだけでは、なぜ追いつかないのか

理由は三つあります。

一つめ。依頼者の話は、順番どおりに出てこない。

「相続の相談です」と始まったのに、途中で「そういえば父の会社の建設業の許可が」と飛び、「兄とは十年前から連絡を取っていない」と戻る。行きつ戻りつするのが当たり前です。紙のメモは、この動きを追えません。

二つめ。数字と固有名詞が命なのに、いちばん取りこぼしやすい。

取得年月日、地番、法人名、金額、人の名前。書類を作る段になって「あれ、いつだったか」となる。もう一度聞き直すのは、こちらの信用に傷がつきます。

三つめ。手を動かしていると、聞けない。

これがいちばん大きい。うなずきながら相手の目を見て聞く時間と、メモを書く時間は、同時に取れません。相談の質そのものが落ちます。

水彩イラスト:机をはさんで穏やかに相談する二人

録音は「証拠」のために録るのではない

ここを誤解すると、目的を外します。

録音というと「言った・言わないの争いに備えて」と考えがちですが、行政書士の実務でいちばん効くのはそこではありません。効くのは、次の三つです。

  • 受任内容の確認——何を頼まれて、何は頼まれていないのか。あとで聞き直せる。
  • 書類作成の精度——数字と固有名詞を、記憶ではなく記録から拾える。
  • 二度手間の防止——「もう一度聞かせてください」と言わずに済む。

争いに備えるための録音は、相手に警戒されます。「正確に書類を作るために録らせてください」と言えば、まず断られません。目的が違えば、伝え方も変わります。

まず、いま持っているもので始める

いきなり機械を買う必要はありません。手元にあるもので始めて、足りなくなってから考えれば十分です。

使うものできること費用
iPhone「ボイスメモ」録音。標準アプリで、追加費用なし無料
Android「レコーダー」録音。機種によってはその場で文字起こしもできる無料
Windows「サウンドレコーダー」パソコンでの録音。Web会議の音も録れる無料
Word のトランスクリプト録音ファイルを読み込ませて文字起こし。1か月あたり最大300分までM365に付属

Word のトランスクリプト機能は、Microsoft のサポートページによれば Microsoft 365 サブスクリプションが必要で、「現在、商用テナントの Windows 上の Word for Microsoft 365 でのみ使用できます」とされています。アップロードした音声は「1 か月あたり最大 300 分」まで。80以上のロケールに対応しています。

すでに Microsoft 365 をお使いなら、追加費用ゼロで「録音→文字起こし」の一本道ができます。月300分は、一件30分の相談なら10件分です。開業して間もない時期なら、これで足りることも多いはずです。

ここで止まってよい人 対面の相談が月に数件で、パソコンの前で作業することが多い方は、買い足す必要はありません。この記事の後半は、足りなくなってから読んでください。

スマホ録音で困るのは、こういうとき

足りなくなるのは、だいたい次の場面です。

  • 途中で電話が来て、録音が止まる。スマホで録っていると、これが起きます。いちばん大事な話をしている最中に限って起きます。
  • 机の上にスマホを置くのが、気まずい。画面が光る、通知が出る。相手の視線がそこへ行きます。
  • 誰が話したのか分からない。相続の相談で三人来られたとき、文字起こしが誰の発言かを区別してくれないと、読み返しても使えません。
  • 文字起こしが月300分では足りない。相談が増えれば、すぐ超えます。

この四つのどれかに当たったら、専用機を考える段階です。

専用機を使うと、何が変わるか

最近の「AIボイスレコーダー」は、録るだけの機械ではありません。録音・文字起こし・要約までを一本でやるものになっています。行政書士の実務で使う前提で、三つ挙げます。

※ 以下の3製品のリンクはアフィリエイトリンクです。価格・仕様は執筆時点(2026年9月)に各公式サイトで確認したものです。購入前に必ず最新の情報をご確認ください。

PLAUD NOTE

カード型で、名刺入れくらいの薄さ。机に置いても目立ちません。公式サイトの表示では22,000円(セール価格)、上位の PLAUD NOTE Pro が30,800円。首から下げるウェアラブル型の NotePin もあります。

  • 公式サイトの表記では112ヶ国語対応・話者ラベル・多次元要約
  • 文字起こしは月あたりの分数プラン制(年間プロプラン16,800円で月1,200分/年間無制限40,000円/600分2,000円などのパッケージもあり)
  • 会議、電話、ボイスメモ、インタビュー、講義への対応が記載されています

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PLAUD NOTE

Notta Memo

文字起こしサービスの Notta が出しているレコーダー。公式商品ページの表示では25,500円(税込)。約28gで、メモリは32GB。

  • 録音時間は約30時間(連続録音は最大5時間、スタンバイ最大28日)
  • MEMSマイク4基+骨伝導マイク1基。文字起こし精度は最大98.86%と表示されています
  • 最大58言語対応。要点とToDoを自動抽出するAI要約つき
  • 購入特典として毎月300分の文字起こしが永久無料(スタータープラン)

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【Notta Memo】

Zenchord 1(AI議事録イヤホン)

イヤホン型。Notta と連携して動きます。机に何も置かずに録れるので、相手に器械を意識させたくない場面や、電話・Web会議が多い方に向きます。

  • オープンイヤー型・Bluetooth 6.0。イヤホン単体10g
  • 連続使用はイヤホン本体で最大10時間、ケース併用で最大30時間
  • 公式サイトの表記では「通話・対面・Web会議、どんなシーンでも」記録できるとされています
  • 最大58言語のリアルタイム翻訳、11カテゴリー・30種類以上のテンプレートでAI要約

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【ZENCHORD1】

選ぶときに見るのは、この三つだけ

スペック表を全部見る必要はありません。見るのは三点です。

見る点なぜ見るのか判断の目安
月に何分録るか文字起こしは、ほぼどの製品も月あたりの分数で課金される。ここが費用を決める相談1件30分×月10件=300分。これを超えるなら有料プランを前提に計算する
どこで録るか対面・電話・Web会議で、向く形が変わる対面が多いなら据え置き型(カード型)。電話とWeb会議が多いならイヤホン型
文字起こしはどこで行われるか音声が外部のサーバーに送られるかどうか。守秘義務にかかわる利用規約で、保存場所・保存期間・AI学習への利用の有無を確認する

三つめが、行政書士にとっていちばん大事です。次の章で詳しく書きます。

道具を変えても、秘密保持義務は消えない

根拠条文を確かめておきます。

(秘密を守る義務)
第十二条 行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。
(行政書士法第12条)

罰則もあります。

第二十二条 第十二条又は第十九条の三の規定に違反した者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
(行政書士法第22条)

「便利だから使った」は、正当な理由になりません。文字起こしサービスに音声を送るという行為は、依頼者の話した内容を、自分以外のところへ渡す行為です。使うなら、次の三つは必ず確認してください。

  • 利用規約で、送った音声がAIの学習に使われないか。「学習に利用しない」「オプトアウトできる」と明記されているかを見る。
  • データの保存場所と保存期間。どこのサーバーに、いつまで残るのか。
  • 自分で削除できるか。案件が終わったときに、消せる手段があるか。

そして、録音するときは相手の同意を取ってください。これは法律上の細かい議論を置いても、実務の作法として当然のことです。言い方は難しく考えなくていい。

「書類を正確に作りたいので、お話を録音させていただいてよろしいですか。先生に出す書類を作るためだけに使いますし、終わったら消します。」

この一言で足ります。断られたら録らない。それだけです。

机の上に並んだ二つの白紙の書類の束の水彩イラスト

運用の型——録ったあとが本番

いちばんよくある失敗は、録りっぱなしにすることです。録音ファイルが100件たまっていても、聞き返さなければ意味がありません。

私がすすめる型は、これだけです。

  1. その日のうちに文字起こしをかける。翌日に回すと、まずやりません。相談が終わって席に戻ったら、そのまま流す。
  2. 全文は読まない。文字起こしは検索のための材料です。あとで「地番」「期限」で検索できれば、それでいい。
  3. 要点だけを案件ファイルに書き写す。依頼内容、期限、決まっていないこと、次にやること。この四つだけ。5行で済みます。
  4. 音声は期限を決めて消す。「納品から3か月」など、自分で決めて守る。残し続けるほうがリスクです。

ファイル名は、あとで探せる形にしてください。日付+依頼者+用件の順が探しやすいです。

20260912_山田様_相続_初回相談.m4a

なお、行政書士法施行規則が定める帳簿は別のものです。録音や文字起こしは、あくまで自分の仕事の精度を上げるための道具で、法定の備付け書類ではありません。そこは混同しないでください。帳簿のほうは 行政書士の帳簿には何を書く?備付けと2年保存の義務 で整理しています。

水彩イラスト:整った事務所の机まわりと観葉植物、朝の光

よくある失敗、四つ

失敗どうなるか直し方
録りっぱなしで文字起こししないファイルがたまるだけ。探すのに時間がかかり、結局聞かないその日のうちに流す。習慣にしないと続かない
同意を取らずに録るあとで分かったときに、信用を失う。取り返しがつかない最初のひと言で必ず断る。断られたら録らない
文字起こしを全文保存して満足する読み返さないので、要点が頭に入っていない要点4項目だけ書き写す。5行でよい
スマホで録っていて電話が来るいちばん大事なところが切れる機内モードにする、または専用機を使う

まとめ

  • メモだけでは追いつかない。話は行きつ戻りつし、数字は取りこぼし、手を動かすと聞けない。
  • 録音の目的は「証拠」ではなく、受任内容の確認・書類の精度・二度手間の防止。
  • まずは手元のもので始める。Microsoft 365 があれば Word のトランスクリプトで月300分まで無料。
  • 足りなくなったら専用機。選ぶ基準は「月の分数」「録る場所」「文字起こしがどこで行われるか」の三つだけ。
  • 道具を変えても、行政書士法第12条の秘密保持義務は消えない。違反には第22条の罰則がある。
  • 録ったあとが本番。その日のうちに文字起こし、要点4項目、音声は期限を決めて消す。

録音を始めてから、相談の時間がはっきり変わりました。相手の話を、ちゃんと最後まで聞けるようになったからです。道具にお金をかける価値があるのは、こういうところだと思います。

この記事で確認した一次情報

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——ヒロやん