罹災証明書と行政書士|災害時にできること・できないことと、平時の準備

災害が起きたあと、被災した人が最初に向き合う書類が罹災証明書です。これがないと、支援金も、税の減免も、多くの手続が前に進みません。そして、この書類は行政書士が正面から関われる仕事でもあります。この記事では、罹災証明書とは何かを条文で確かめたうえで、行政書士に何ができて、何ができないのか、そしていま何を準備しておくべきかを整理します。
目次(全12項目)
罹災証明書は、何を証明する書類か
根拠は災害対策基本法第90条の2です。まず、そのまま読んでみてください。
(罹災証明書の交付)
第九十条の二 市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があつたときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書面(第四項において「罹災証明書」という。)を交付しなければならない。
(災害対策基本法第90条の2第1項)
読むときのポイントは三つあります。
ひとつめは、交付するのは市町村長だということ。都道府県でも国でもありません。様式も、受付方法も、市町村ごとに違います。
ふたつめは、「交付しなければならない」と書かれていること。申請があれば、市町村長には交付する義務があります。裁量で断れるものではありません。
みっつめは、証明の対象が「住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況」だということ。中心にあるのは住家です。家財や自動車、事業用の資産は、罹災証明書そのものの対象とは限りません。
同じ条には、こういう項も置かれています。
4 市町村長は、災害の発生に備え、罹災証明書の交付に必要な業務の実施体制の確保を図るため、第一項の規定による調査について専門的な知識及び経験を有する職員の育成、当該市町村と他の地方公共団体又は民間の団体との連携の確保その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(災害対策基本法第90条の2第4項)
「民間の団体との連携の確保」——ここが、行政書士会が自治体と協定を結ぶときの、法律上の足がかりになっています。災害が起きてから駆けつけるのではなく、平時から体制を組んでおくことが市町村の努力義務として書かれている、ということです。
「罹災証明書」と、それ以外の証明
実務でよく混乱するのが、住家以外の被害です。家財、自動車、店舗の設備、農機具。これらについて、多くの市町村は「被災届出証明書」「罹災届出証明書」といった名称の書面を、罹災証明書とは別に発行しています。
ただし、これらは災害対策基本法第90条の2に直接の根拠を持つものではなく、名称も、対象も、証明の内容も市町村ごとに異なります。「届出があった事実」を証明するだけのものもあれば、被害の程度まで判定するものもあります。
正直に書いておきます この住家以外の証明について、全国共通のルールを定めた法令等は、私が調べた範囲では確認できませんでした(未確認)。依頼を受けたら、必ずその市町村の要綱と様式を直接あたってください。「隣の市ではこうだった」は通用しません。
被害の程度は、六つに分かれる
住家の被害の程度は、内閣府(防災担当)の「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」にもとづいて判定されます。区分と、その目安になる損害割合は次のとおりです。
| 区分 | 延床面積に対する 損壊部分の割合 | 住家全体に占める 損害割合 |
|---|---|---|
| 全壊 | 70%以上 | 50%以上 |
| 大規模半壊 | 50%以上70%未満 | 40%以上50%未満 |
| 中規模半壊 | 30%以上50%未満 | 30%以上40%未満 |
| 半壊 | 20%以上30%未満 | 20%以上30%未満 |
| 準半壊 | 10%以上20%未満 | 10%以上20%未満 |
| 準半壊に至らない (一部損壊) | — | 10%未満 |
出典:内閣府(防災担当)「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(令和8年6月)。区分の定義は、たとえば全壊が「住家がその居住のための基本的機能を喪失したもの」、中規模半壊が「居住する住家が半壊し、居室の壁、床又は天井のいずれかの室内に面する部分の過半の補修を含む相当規模の補修を行わなければ当該住宅に居住することが困難なもの」と定められています。
「中規模半壊」は、令和3年の改定で加わった比較的新しい区分です。それ以前の解説をそのまま読んでいると、ここが抜け落ちます。手元の資料が古くないか、一度確かめてください。

判定がひとつ変わると、何が変わるのか
この区分は、単なる分類ではありません。受け取れる金額が変わります。
被災者生活再建支援法は、支援金の額をこう定めています。
2 被災世帯(中略)のうち前条第二号イからニまでのいずれかに該当するものの世帯主に対する支援金の額は、百万円(大規模半壊世帯にあつては、五十万円)に、当該被災世帯が次の各号に掲げる世帯であるときは、当該各号に定める額を加えた額とする。
一 その居住する住宅を建設し、又は購入する世帯 二百万円
二 その居住する住宅を補修する世帯 百万円
三 その居住する住宅(中略)を賃借する世帯 五十万円
(被災者生活再建支援法第3条第2項)
いわゆる基礎支援金と加算支援金です。全壊で住宅を建設・購入すれば100万円+200万円。大規模半壊なら50万円+200万円。判定がひとつ下がるだけで、50万円変わるということです。なお、世帯人数が1人の世帯(単数世帯)は、同条第7項によりそれぞれ4分の3の額に読み替えられます。
罹災証明書が入口になるのは、支援金だけではありません。
| 制度 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 被災者生活再建支援金 | 被災者生活再建支援法第3条 | 基礎支援金+加算支援金。都道府県が世帯主の申請にもとづき支給 |
| 災害弔慰金 | 災害弔慰金の支給等に関する法律第3条 | 災害により死亡した住民の遺族に対し、市町村が条例の定めるところにより支給。死亡者1人あたり500万円を超えない範囲 |
| 災害障害見舞金 | 同法第8条 | 障害が残った住民に対し、1人あたり250万円を超えない範囲 |
| 災害援護資金の貸付け | 同法第10条 | 所得要件を満たす世帯主への貸付け。据置期間中は無利子 |
| 住宅の応急修理 | 災害救助法ほか | 対象範囲・限度額は災害ごとに示される |
| 税・保険料の減免 | 各税法・条例 | 市町村ごとに取扱いが異なる |
よくある誤解 火災保険や地震保険の保険金は、罹災証明書の判定では決まりません。保険会社の鑑定人が別に調査し、約款にもとづいて判断します。「罹災証明で全壊だったのに保険は全損にならない」という相談は必ず出ますが、これは矛盾ではなく、そもそも別の物差しです。ここを最初に説明しておくと、後のトラブルが減ります。
申請から交付までの流れ
市町村によって細部は違いますが、大きな流れは共通しています。
| 段階 | やること | 行政書士の関わりどころ |
|---|---|---|
| 1 申請 | 被災者が市町村に申請。窓口・郵送・マイナポータルからのオンライン申請など | 申請書の作成、添付書類の整理、提出の代理 |
| 2 調査 | 市町村の職員が住家を調査。地震・水害では、外観による第1次調査と、内部に立ち入る第2次調査がある | 立会いの日程調整、被害箇所の説明の準備 |
| 3 判定 | 運用指針にもとづき、六区分のいずれかを判定 | — |
| 4 交付 | 罹災証明書が交付される | 受領、内容の確認 |
| 5 再調査の依頼 | 判定に納得できないとき、再調査を依頼できる | 依頼理由の整理、資料の作成 |
この「5」について、運用指針にはこう書かれています。
調査(地震・水害による被害の場合は第2次調査)実施後、被災者から判定結果に関する再調査の依頼があった場合には、当該被災者の依頼の内容を精査し、再調査が必要と考えられる点があれば、その点について再調査を行う。再調査に基づく住家の被害の程度の判定結果については、理由とともに当該被災者に示す。
(内閣府「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」)
ここで大事なのは、「依頼の内容を精査し、再調査が必要と考えられる点があれば」という条件です。「納得できない」とだけ言っても動きません。どの部分の、どの損傷が、どう評価されるべきなのかを具体的に示す必要があります。ここは、書類を作ることを職業にしている人間の出番です。
行政書士は、どこまでできるのか
出発点は行政書士法第1条の3です。
(業務)
第一条の三 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(中略)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
(行政書士法第1条の3第1項)
罹災証明書の交付申請書は、市町村長あてに出す書類です。「官公署に提出する書類」に、まっすぐ当てはまります。
そして、提出そのものの代理は次の条にあります。
第一条の四 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続(中略)について代理すること。
(中略)
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。
(行政書士法第1条の4第1項第1号・第4号)
つまり、罹災証明書について行政書士ができることは、こう整理できます。
| やること | 可否 | 根拠 |
|---|---|---|
| 交付申請書を作成する | ○ | 第1条の3第1項(官公署に提出する書類) |
| 市町村に提出する手続を代理する | ○ | 第1条の4第1項第1号 |
| 書類の作成について相談に応じる | ○ | 第1条の4第1項第4号 |
| 再調査の依頼書を作成する | ○ | 第1条の3第1項(官公署に提出する書類) |
| 被災者生活再建支援金の申請書を作成する | ○ | 第1条の3第1項 |
| 保険金の請求を代理する・保険会社と交渉する | × | 弁護士法第72条(他の法律による制限) |
| 損害賠償や立退きの交渉をする | × | 弁護士法第72条 |
○=できる×=できない
やってはいけないこと
境目にあるのは、いつもの条文です。
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
(弁護士法第72条)
災害のあとには、法律事件になりやすい相談が一気に集まります。保険金の額に納得がいかない。大家に出ていけと言われた。隣家の瓦が飛んできて車が壊れた。工事業者と揉めている。——これらは書類作成ではなく、紛争です。ここに踏み込んではいけません。
被災した人は弱っていて、頼れる相手を探しています。「先生、どうにかしてください」と言われたときに断るのは、正直つらい。それでも、弁護士会の無料相談につなぐことが、その人にとっていちばん良い場面があります。つなぐ先を、あらかじめ調べておいてください。
慎重に扱うべき点 罹災証明書の判定に対する「再調査の依頼」は、行政不服審査法にもとづく審査請求とは別のものとして運用されています。では罹災証明書の交付や判定が「処分」にあたり審査請求の対象になるのか——この点について、確立した扱いを私は確認できませんでした(未確認)。特定行政書士の不服申立て代理(行政書士法第1条の4第1項第2号)を持ち出す前に、まずその市町村の教示の内容を確かめてください。

いま、現に動いている例
これは机上の話ではありません。この記事を書いている時点で、実際に動いている支援があります。
気象庁によれば、令和8年熊本地震は2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震央として発生し、マグニチュード7.1、最大震度7を記録しました。
これを受けて熊本県行政書士会は、罹災証明書の申請の無料サポートを始めています。八代市が市の公式サイトで告知している内容によれば、支援の中身はこうです。
- スマートフォンやパソコンを利用したオンライン申請について、入力方法、必要書類・写真の準備などをサポート
- 行政書士による書類作成から提出までの代理申請
- 対象は、避難所にいて交通手段がない方、高齢等で役所へ出向くのが難しい方、病気やけがで出向けない方、家族による代理申請が難しい方、オンライン申請に不安がある方など
- 相談・申請サポート費用はすべて無料
- 令和8年8月14日から電話相談を受付、8月25日から行政書士が出向いて対応
注目してほしいのは、「オンライン申請の入力をサポートする」という項目です。罹災証明書はマイナポータルからオンラインで申請できる自治体が増えていますが、避難所にいる高齢の方が、スマートフォンでマイナンバーカードを読み取って、被害の写真を添えて申請する——これは、実際にはかなり難しい。その難しさを埋めるところに、行政書士の役割があります。
組織としての備えも進んでいます。日本行政書士会連合会は、2024年9月25日に内閣府と災害支援に関する連携協定を締結したと公表しています。先ほど見た災害対策基本法第90条の2第4項の「民間の団体との連携の確保」が、こうして形になっているわけです。
依頼者に、最初に伝えるべき三つ
相談を受けたとき、まっさきに伝えるべきことは決まっています。
一つめ。片付ける前に、写真を撮ってください。
これがいちばん大事です。被災した人は、一刻も早く片付けたい。当然です。けれども、片付けてしまうと被害の状況が残りません。撮っておくべきなのは、建物の全景(できれば四方から)、被害を受けた各面、室内の各部屋、破損箇所の寄り、浸水した場合は水が来た高さがわかるもの。日付がわかるように撮り、消さずに残しておくよう伝えてください。
二つめ。申請には期限があります。
罹災証明書の申請期限は、災害対策基本法に定めがあるわけではなく、市町村がそれぞれ定めています(災害発生から数か月とされることが多いものの、災害ごとに延長されることもあります)。「あとで」と思っているうちに過ぎてしまうことがあるので、その市町村の期限を、その場で調べて伝えてください。
三つめ。判定に納得できなければ、再調査を依頼できます。
これを知らない人が、とても多い。第1次調査は外観からの判定なので、中に入ってみないとわからない被害——基礎のひび、傾き、内部の損傷——が反映されていないことがあります。「思っていたより軽い判定だった」と感じたら、その理由を具体的に整理して、再調査を依頼する道があります。
平時に、準備しておくこと
災害が起きてから調べ始めるのでは間に合いません。いまのうちに、次のことをやっておいてください。
- 自分の単位会の災害対策の窓口を確認する。大規模災害時に会員名簿にもとづいて動員がかかる会もあります。連絡先と、自分がどの名簿に載っているかを把握しておく。
- 地元の市町村の罹災証明書の様式と窓口を、いま取り寄せておく。災害後にサーバーが混み合って見られない、ということが実際に起こります。印刷して紙で持っておく。
- マイナポータルからの罹災証明書の申請を、一度自分でたどってみる。説明できないものは、サポートできません。
- つなぐ先を決めておく。弁護士会、司法書士会、税理士会、社会福祉協議会。紛争性のある相談、登記、税、生活支援。どこに送るかを、名前と電話番号まで書き出しておく。
- 自分の事務所のBCPをつくる。依頼者の書類と帳簿が失われたら、支援どころではありません。行政書士法施行規則第9条の帳簿は2年間の保存義務があります。バックアップの置き場所を、いま決めてください。

まとめ
- 罹災証明書は、市町村長が住家の被害の程度を証明する書面(災害対策基本法第90条の2第1項)。申請があれば交付する義務がある。
- 判定は全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊・準半壊に至らないの六区分。内閣府の運用指針にもとづく。
- 判定ひとつで、被災者生活再建支援金の額が数十万円単位で変わる。
- 行政書士は申請書の作成・提出の代理・相談ができる(行政書士法第1条の3、第1条の4)。再調査の依頼書の作成もできる。
- 保険金の請求代理や紛争の交渉はできない(弁護士法第72条)。つなぐ先を用意しておく。
- 依頼者に最初に伝えるのは、写真・期限・再調査の三つ。
- 準備は平時にしかできない。様式、窓口、名簿、つなぐ先、自分のバックアップ。
災害の現場で行政書士ができることは、劇的なことではありません。書類を一枚、正しく整えるだけです。けれども、その一枚が支援金の額を変え、生活の再建の速さを変えます。それは、じゅうぶんに専門職の仕事です。
この記事で使った一次情報
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第90条の2 — e-Gov法令検索
- 被災者生活再建支援法(平成10年法律第66号)第2条・第3条 — e-Gov法令検索
- 災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)第3条・第8条・第10条 — e-Gov法令検索
- 行政書士法(昭和26年法律第4号)第1条の3・第1条の4 — e-Gov法令検索
- 弁護士法(昭和24年法律第205号)第72条 — e-Gov法令検索
- 内閣府(防災担当)「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(令和8年6月) — 防災情報のページ
- 気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」 — 気象庁
- 八代市「熊本県行政書士会による令和8年熊本地震『り災証明書』無料申請支援について」 — 八代市
- 日本行政書士会連合会「災害対策」 — 日行連
——ヒロやん

