行政書士の独占業務とは|業際を条文で確かめる

「この仕事、受けていいんだろうか」。行政書士をしていると、必ずこの瞬間が来ます。依頼者は困っている。自分にもできそうに見える。でも、どこかに線があるはずだ——。この記事では、その線がどの条文に、どう書かれているのかを確かめます。感覚で覚えるのではなく、自分で調べて判断できるようになることがねらいです。
三士業の違いを条文抜きでざっくりつかみたい方は、行政書士と社労士・司法書士は何が違う?業務範囲をやさしく整理 のほうが読みやすいと思います。この記事は「条文で確かめたい人」向けです。

目次(全15項目)
- 独占業務は、どの条文に書いてあるか
- では、何が独占なのか
- 「代理」は、また別の条にある
- 破ったら、どうなるか
- 相手側にも、同じ形の条文がある
- 迷ったときの、三段階
- 業務別の早見表【許認可編】
- 早見表の続き(21項目)
- 社労士法第27条ただし書の「政令」を、実際に開いてみる
- 令和8年1月1日、第19条はこう変わった
- なぜ「いかなる名目によるかを問わず」が入ったのか
- 実務にいちばん効くのは、第23条の3
- 「今回の改正で独占が緩んだ」という説明について
- 角の立たない断り方
- この付録で、書かなかったこと
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独占業務は、どの条文に書いてあるか
根拠は行政書士法第19条第1項です。まず、そのまま読んでみてください。
行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
(行政書士法第19条第1項)
読み方のコツは、「〜でない者は、〜できない」という形になっているところです。「行政書士はこれができる」と書いてあるのではありません。「行政書士でない者はできない」と書いてある。これが独占業務の条文の形です。
では、何が独占なのか
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録…を作成する場合における当該電磁的記録を含む。…)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
(行政書士法第1条の3)
柱は三つです。
- 官公署に提出する書類——許認可の申請書など。
- 権利義務に関する書類——契約書、遺産分割協議書、示談書など。
- 事実証明に関する書類——実地調査に基づく図面類を含む。
そして第2項が、業際そのものです。「他の法律において制限されているものは、業務を行うことができない」。行政書士法の中に、他士業への配慮が最初から書き込まれている。業際は慣習ではありません。条文です。

「代理」は、また別の条にある
書類を作ることと、代理することは、条が分かれています。代理は第1条の4です。
行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
(行政書士法第1条の4 柱書)
- 第1号 作成できる書類の提出手続の代理と、聴聞・弁明の機会の付与などの手続における代理。弁護士法第72条の法律事件に関する法律事務に当たるものは、条文で明文で除かれています。
- 第2号 不服申立ての代理と、その手続の書類作成。
- 第3号 契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
- 第4号 作成できる書類の作成についての相談。
第2項があります。第2号の不服申立ての代理は、研修を修了した「特定行政書士」に限られます。
破ったら、どうなるか
第十九条第一項の規定に違反したときは、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
(行政書士法第21条の2)
「拘禁刑」という表記です。刑法改正で懲役と禁錮が一本化されました。古い写しの「一年以下の懲役」は、現行ではこの表記になっています。

相手側にも、同じ形の条文がある
業際が難しく感じるのは、自分の法律だけを読んでいるからです。他士業の法律にも、まったく同じ形の条文が置かれています。
弁護士法第72条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
「その他一般の法律事件」という広い受け皿があります。業際でいちばん神経を使うのはここです。
司法書士法第73条第1項
司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第3条第1項第1号から第5号は、登記・供託の代理/法務局に提出する書類の作成/登記・供託の審査請求の代理/裁判所・検察庁に提出する書類の作成/これらの相談です。
税理士法第52条
税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。
中身は第2条第1項で、税務代理・税務書類の作成・税務相談の三つ。相談まで入っているのがこの法律の厳しいところです。
社会保険労務士法第27条
社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。
「政令で定める業務に付随して行う場合」という、他にはない例外が付いています。この政令に何が書いてあるかは、あとで正確にお見せします。ここを誤解している説明を、よく見かけます。

迷ったときの、三段階
第一段階 第1条の3の三つの柱に入るか
官公署提出書類・権利義務に関する書類・事実証明に関する書類。どれにも当てはまらないなら、そもそも行政書士の業務ではありません。
第二段階 他の法律で制限されていないか
第1条の3第2項の出番です。相手方の法律を、条文で開いて確認する。「登記だから司法書士」で止めず、司法書士法第3条第1項の何号に当たるのかまで見る。ここまでやると、境目がはっきりします。
第三段階 紛争性があるか
弁護士法第72条の「その他一般の法律事件」は広い受け皿です。争いの芽があるかを、受任の前に確かめる。書類を作るだけのつもりが、途中から交渉になっていく——これがいちばん多い事故の形です。
業務別の早見表【許認可編】
ここからは、実際の業務ごとに整理します。すべて根拠条文つきです。根拠を書けないものは載せていません。
○=行政書士の業務として扱える△=条件つき・要注意×=他士業の独占領域
| 業務 | 可否 | 根拠・境目 |
|---|---|---|
| 許認可 | ||
| 建設業許可の申請書作成 | ○ | 官公署に提出する書類(法1条の3第1項) |
| 建設業許可の提出手続の代理 | ○ | 法1条の4第1項第1号 |
| 産業廃棄物収集運搬業許可 | ○ | 同上 |
| 古物商許可 | ○ | 同上 |
| 風俗営業許可・深夜酒類提供飲食店営業開始届出 | ○ | 同上 |
| 農地法3条・4条・5条の許可申請・届出 | ○ | 同上 |
| 一般貨物自動車運送事業・貨物軽自動車運送事業 | ○ | 同上 |
| 飲食店営業許可 | ○ | 同上 |
| 許認可についての聴聞・弁明の手続の代理 | ○ | 法1条の4第1項第1号。ただし弁護士法72条の法律事件に関する法律事務に当たるものは条文で除外 |
| 許認可の審査請求(不服申立て)の代理 | △ | 法1条の4第1項第2号。同条第2項により特定行政書士に限られる |
許認可は、行政書士の主戦場です。ここは迷いません。問題は、この先です。

この続き(有料)に入っているもの
- 早見表の残り21項目——相続/会社・法人/税務・労務/知財・登記・海事/紛争・裁判/外国人の6分野。すべて根拠条文つきで、○△×が一目で分かります。
- 社会保険労務士法第27条ただし書の「政令で定める業務」の中身——施行令の条文を取得しました。ここを読み違えている説明が多い場所です。
- 令和8年1月1日、第19条の何が変わったのか——改正前後の条文を取り直して、逐語で並べた新旧対照。
- 実務にいちばん効く第23条の3——違反した本人だけでなく、その法人にも罰金が科される仕組み。
- 「今回の改正で独占が緩んだ」という説明について——法令データを遡って確かめた結果を書いています。
- 角の立たない断り方の型——依頼者との関係を壊さずに線を引く言い方。
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※ 記載は執筆時点の法令にもとづきます。改正があった場合は記事を更新します。
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