確定申告は自分でやるか、税理士に頼むか|行政書士の場合

開業して1〜2年、確定申告のたびに「そろそろ税理士を入れるべきか」と迷っていませんか。行政書士自身の申告は自分でできますが、依頼者から頼まれた税務書類まで手伝ってよいかどうかは、まったく別の話です。税理士法の条文でその線引きを正確に確認したうえで、自分で申告する場合に必要な準備と1年の流れ、そして税理士に依頼するかどうかを決めるための判断材料を整理します。
まず線引き:自分の申告は自分でできる。他人の申告は受けられない
誰でも、自分自身の確定申告は自分ですることができます。これは税理士の資格とは関係のない、納税者本人の当然の権利です。行政書士である私たちも、自分の事務所の売上や経費をまとめて、毎年3月に自分で申告書を作っています。
問題は、依頼者から「ついでに確定申告も見てもらえませんか」と頼まれたときです。行政書士は官公署に提出する書類の作成を業とできますが、行政書士法にはその業務が他の法律で制限されている場合の例外規定があります。
(業務)
第一条の三
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
依頼者の確定申告書の作成は、まさにこの「他の法律において制限されている」業務にあたります。制限しているのが次に見る税理士法です。士業同士の業務範囲は重なって見えても実は明確に線が引かれていて、社労士・司法書士と行政書士は何が違うかで書いた境界と同じ構造だと思うと理解しやすいはずです。

税理士法が何を禁じているか(条文で確認する)
税理士法第2条は、税理士の業務を「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の3つに整理しています。長い条文ですが、括弧内の細かい除外規定は(中略)としたうえで、そのまま引用します。
(税理士の業務)
第二条 税理士は、他人の求めに応じ、租税(中略)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 税務代理(税務官公署(中略)に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法(中略)の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立て(中略)につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(次号の税務書類の作成にとどまるものを除く。)をいう。)
二 税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類(中略)で財務省令で定めるもの(以下「申告書等」という。)を作成することをいう。)
三 税務相談(税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(中略)の計算に関する事項について相談に応ずることをいう。)
依頼者に代わって申告書を作ること(二号)はもちろん、「この経費は控除できますか」と聞かれて具体的に答えること(三号)まで、税理士の独占業務に含まれます。そして、税理士でない者がこれを行うことを禁じているのが第52条です。
(税理士業務の制限)
第五十二条 税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。
第52条に違反すると、税理士法第59条第1項第4号により罰則の対象になります。行政書士が「税務のことも多少はわかるので」と依頼者の申告を手伝ってしまうと、善意のつもりでも税理士法違反になり得ます。自分の申告と依頼者の申告は、法律上まったく別の話だと覚えておいてください。無資格者による業務違反は他人事ではなく、行政書士自身の業務範囲についても同様の線引きがあります。詳しくは報酬をもらうと違法になるのは誰か|行政書士法19条と令和8年改正で解説しています。
自分でやる場合に必要なもの
自分の申告を自分でやるなら、日々の記帳を溜めないことがいちばんの近道です。領収書やレシートをその都度データ化し、会計ソフトに反映させておけば、3月になって慌てずに済みます。青色申告特別控除(65万円)を受けるには複式簿記での記帳が条件になるため、最初から対応ソフトを選んでおくと後で困りません。開業届や青色申告承認申請書の出し方は行政書士の開業届と青色申告承認申請書に、ソフト選びの比較は開業したら会計ソフトはどれ?にまとめています。ここでは、実際に私も使っている会計ソフトを紹介しておきます。
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自分でやるときの1年の流れ
年間を通じてやることは、実はそれほど多くありません。月ごとにやることを決めておくと、確定申告の時期に一気に負担が集中するのを避けられます。
- 毎月:預金通帳・クレジットカードの明細を会計ソフトに取り込み、仕訳を確認する
- 毎月:受け取った領収書・請求書をスキャンまたは撮影して保存する
- 12月:固定資産の状況、家事按分の割合を見直す
- 1月:前年分の帳簿を締め、必要経費の計上漏れがないか確認する
- 2月〜3月:決算整理(減価償却、家事按分の反映)をして申告書を作成する
- 3月15日まで:e-Taxまたは書面で確定申告書を提出し、納税する
申告書の作成そのものは、国税庁の確定申告書等作成コーナーの画面案内に沿って入力していけば完結します。マイナンバーカードを使ったe-Taxなら、税務署に行かずに自宅から送信できます。ただし、記帳がたまっていると2月・3月に一気に作業が集中してつらくなるので、日々の入力を後回しにしないことが何より大事です。日々の記帳を効率化するなら、こうしたクラウド会計サービスも選択肢になります。
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税理士に頼むと何が変わるか
税理士に依頼すると、まず自分の作業時間が減ります。記帳や申告書作成にかかっていた時間を、本業の受注や営業に回せるのは大きなメリットです。また、控除の適用漏れや経費計上のミスを事前にチェックしてもらえるため、申告の精度も上がります。
特に効果が大きいのは、消費税とインボイス制度が絡んでくる場面です。売上が一定規模を超えて課税事業者になった場合や、インボイス発行事業者として登録している場合は、消費税の申告が加わり、自分だけで判断するのが難しくなります。将来的に法人化(法人成り)を考えているなら、そのタイミングの見極めも税理士に相談できる領域です。こうした相談も含めて、クラウド会計と顧問サービスをセットで検討する行政書士も増えています。
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頼むかどうかの判断材料
「絶対にこうすべき」という正解はありません。次のような点を自分の状況に照らして考えてみてください。
| 判断材料 | 自分でやる方に傾く | 税理士に頼む方に傾く |
|---|---|---|
| 売上規模 | 小さく、取引もシンプル | 大きい、または取引が複雑 |
| 時間単価 | 申告作業の時間を惜しまない | その時間を受注活動に使いたい |
| 消費税 | 免税事業者のまま | 課税事業者・インボイス登録済み |
| 将来計画 | 当面は個人事業のまま | 法人化を検討している |
売上や報酬の実態がまだつかめていない開業1〜2年目は、まず行政書士の収入・報酬のリアルで自分の水準を確認してから、時間単価で考えてみるのがおすすめです。税理士報酬は事務所ごとに料金体系が大きく違うので、金額の目安をここで示すことはできません。気になる事務所が見つかったら、複数の税理士事務所に見積もりを取って比較するとよいでしょう。
依頼者から税金のことを聞かれたときの答え方
行政書士業務の相談の中で「これって経費になりますか」「消費税はどうなりますか」と聞かれる場面は、開業直後から意外と多くあります。ここで具体的に答えてしまうと、先ほど確認した税理士法第2条第1項第三号の「税務相談」に該当するおそれがあります。
実務では、次のように答えるようにしています。
- 「そこは税務の話になるので、顧問の税理士さんか、税務署・国税庁のタックスアンサーで確認してください」と正直に伝える
- 依頼者が税理士を探していなければ、一般的な探し方(税理士紹介サービスや商工会議所の無料相談会)を案内するにとどめる
- 行政書士業務の範囲内(許認可や書類の話)で答えられることと、税務の話をはっきり分けて説明する
親切心で踏み込みたくなる気持ちはよくわかりますが、ここは行政書士としての誠実さが試される場面でもあります。線引きをきちんと説明できること自体が、依頼者からの信頼につながります。
まとめ
行政書士は、自分自身の確定申告を自分ですることは何の問題もありません。一方で、依頼者の税務書類の作成や税務相談は、税理士法第2条・第52条によって税理士の独占業務とされており、行政書士法第1条の3第2項によっても行うことができません。この線引きを正確に理解したうえで、自分でやるか税理士に頼むかは、売上規模や時間単価、消費税の状況、法人化の予定などを踏まえて、経営判断として決めていくことになります。
——ヒロやん

