報酬をもらうと違法になるのは誰か|行政書士法19条と令和8年改正

「知り合いの会社から書類作成を頼まれて、お礼をもらった」「無資格の代行業者に仕事を持っていかれた」——このあたりの線引きが、2026年(令和8年)1月1日から前より分かりやすくなりました。行政書士法第19条が改正されたためです。開業したばかりの方ほど、ここは早めに押さえておいてください。自分を守る話でもあり、依頼者に説明できるようになる話でもあります。
まず、条文をそのまま読む
行政書士法(昭和二十六年法律第四号)第19条は「業務の制限」という見出しの条文です。2026年8月1日時点で施行されている条文は、次のとおりです。
(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。2 総務大臣は、前項に規定する総務省令を定めるときは、あらかじめ、当該手続に係る法令を所管する国務大臣の意見を聴くものとする。
ここで出てくる「第一条の三に規定する業務」というのが、私たちの本業そのものです。こちらも条文を見ておきます。
(業務)
第一条の三 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。

何が変わったのか
改正で第19条第1項に加わったのは、「いかなる名目によるかを問わず」という言葉です。改正前は「報酬を得て」でした。
たった一言ですが、実務では大きな違いがあります。これまでは「これは報酬ではなくコンサルティング料です」「手数料としていただいているだけです」「サポート費用です」といった説明で、規制の外に立とうとする動きがありました。名目を変えれば逃げられる、という理屈です。
改正後の条文は、その理屈を正面から否定しています。お金の名前が何であっても、他人の依頼を受けて報酬を得て、業として官公署提出書類などを作るなら、行政書士でない者はできないということが、条文の文言としてはっきりしました。
この改正は令和7年法律第65号によるもので、令和8年(2026年)1月1日から施行されています。改正の趣旨については、日本行政書士会連合会が会長談話を公表しています。
罰則は「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」
第19条第1項に違反した場合の罰則は、第21条の2に定めがあります。
第二十一条の二 第十九条第一項の規定に違反したときは、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
「拘禁刑」という言葉に見慣れない方もいると思います。刑法の改正で、懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されました。古い資料に書かれている「懲役」は、いまの条文では拘禁刑です。
会社にも罰金がかかるようになった
今回の改正でもうひとつ変わったのが、両罰規定です。第23条の3を見てください。
第二十三条の三 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第二十一条の二、第二十二条の四、第二十三条第二項又は前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
この条文には第21条の2——つまり第19条第1項違反——が含まれています。会社の従業員が業務として無資格で書類作成を請け負った場合、その従業員本人だけでなく、会社にも罰金刑が科されるということです。第21条の2の罰金刑は100万円以下ですから、会社にもその範囲で罰金がかかりえます。
ここは、企業の総務や人事にとっては見過ごせない話です。「社内の担当者がやっていたことなので」では済まなくなりました。

「行政書士」と名乗ること自体にも制限がある
あわせて押さえておきたいのが、第19条の2の「名称の使用制限」です。
(名称の使用制限)
第十九条の二 行政書士でない者は、行政書士又はこれと紛らわしい名称を用いてはならない。2 行政書士法人でない者は、行政書士法人又はこれと紛らわしい名称を用いてはならない。
3 行政書士会又は日本行政書士会連合会でない者は、行政書士会若しくは日本行政書士会連合会又はこれらと紛らわしい名称を用いてはならない。
こちらの罰則は第22条の4で、100万円以下の罰金です。「行政書士事務所〇〇」といった名称を、登録前に名刺やホームページに載せてしまう——開業準備中にやりがちなことですが、登録が完了するまでは名乗れません。
行政書士の側が気をつけること
この条文は「無資格者を取り締まる規定」として語られがちですが、行政書士の側にも関係します。
- 名義貸しをしない。無資格の業者が作った書類に自分の名前だけ載せる、という形は、実質的に第19条第1項違反に手を貸すことになります。
- 紹介料の受け渡しに注意する。業者から「集客するので手数料を」と持ちかけられたとき、その業者が実質的に書類作成をしていないか確認してください。
- 他士業の独占業務に踏み込まない。第1条の3第2項は「その業務を行うことが他の法律において制限されているもの」を除いています。税務代理は税理士、登記は司法書士、労働社会保険の手続は社労士です。この線引きは行政書士と社労士・司法書士は何が違う?で整理しています。
依頼者や取引先にどう説明するか
実務では、この改正は営業の材料にもなります。ただし、脅すような言い方はしないほうがいいと私は思っています。
「他社さんに頼むと違法ですよ」ではなく、「2026年から法律が変わって、報酬の名目にかかわらず、資格のない方が業として書類を作ることができなくなりました。御社にも罰金の規定がかかるようになったので、念のためお伝えしておきます」——事実だけを伝えれば十分です。相手が判断します。
条文を正確に引ける人は、それだけで信頼されます。ここは覚えておいて損のないところです。
手元に1冊置いておくなら
行政書士法そのものを調べたいとき、条文だけを追っても背景が分かりません。私は逐条解説を1冊だけ置いています。毎日開くものではありませんが、業際で迷ったときに戻れる場所があると安心です。
詳解行政書士法 第5次改訂版(地方自治制度研究会 編/ぎょうせい)
行政書士法を条ごとに解説した本です。条文の言葉の意味や、どうしてその規定が置かれているのかまで書かれているので、業際で迷ったときに「なぜダメなのか」を自分の言葉で説明できるようになります。試験勉強のためではなく、開業後に手元に置く一冊です。
- 地方自治制度研究会 編、ぎょうせい刊。行政書士法の逐条解説書です
- 500ページ。2024年3月発売、ISBNは9784324113851と商品ページに記載があります
- 発売が2024年3月なので、令和7年法律第65号(令和8年1月1日施行)による第19条第1項・第23条の3の改正は反映されていません。改正部分はe-Govの現行条文で確認してください
価格・在庫・版は変わります。購入前に各サイトの現行表示(さらに新しい改訂版が出ていないか)をご確認ください。
まとめ
整理します。
- 第19条第1項に「いかなる名目によるかを問わず」が加わり、報酬の名前を変えても規制を逃れられないことが明確になった
- 違反すると、第21条の2により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 第23条の3の両罰規定に第21条の2が入り、行為者だけでなく法人にも罰金刑が科される
- 施行は令和8年1月1日(令和7年法律第65号)
- 「行政書士」と名乗ること自体も第19条の2で制限され、違反は第22条の4により100万円以下の罰金
条文は変わります。この記事は2026年8月1日時点で施行されている条文をe-Gov法令検索で確認して書いていますが、実際にご自身の事案で判断するときは、そのときの現行条文をご確認ください。判断に迷う事案は、所属の単位会に相談するのがいちばん確実です。
日本行政書士会連合会「【会長談話】行政書士法第19条第1項及び第23条の3の改正の趣旨等について」https://www.gyosei.or.jp/news/20251101
——ヒロやん

